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『中国貧困絶望工場』 アレクサンドラ・ハーニー氏講演会 (2)

(昨日の続き)

■現在、中国の輸出量は激減。
昨年秋以降、6万以上の工場が閉鎖され、1100万人の出稼ぎ労働者が失職している。

■今後の中国製造業のゆくえ
厳しい状況ながら、不況が逆に中国の力を高めている兆しがある。

1. 不当な受注の拒否 (不当に安いと思われる海外からの要求にはNoという)
2. 工場の移転 (コストの高い沿岸部 → 内陸の農村部へ)
⇒ 貧しい農村部の発展につながる

★China Price は、現在の「沿岸China Price」からさらに安価な「内陸China Price」へと、変化し始めている。
★したがって、China Price は値上がりしない。中国は今までと変わらぬ競争力を維持し、「世界の工場」であり続ける。
★さらに、価格以外の付加価値を備えた「China Price」の実現を目指している。


【Q&A より】
Q. リーマンショック以降の中国は?
A. (ハーニー氏は毎週のように中国南部を取材)
工場の閉鎖も失業者も増えているのは事実だが、出稼ぎ労働者の中には「これからよくなる」と、ポジティブな考え方の人々が多い。今回の金融危機については世界的な規模の出来事であるとの認識が浸透しており、中国政府を責める機運はない。
「今までも、生活はよくなってきた。これからも、よくなっていくしかない」といったような、将来への信頼感が強い。また、海外で学ぶ人々も増えてきている。

Q. 中国はマクロ的に4兆円の景気対策を発表しているが、製造業には影響があるのか。
A. 「あまり意味がない」という声もあるが、(ハーニー氏としては)インフラへの公共投資で田舎への道路が整備されれば、沿岸部→内陸部への工場の移転も早まる。中国にはまず何よりも道路整備の必要な村々や地域がたくさんあるため、全国的な道路建設が国家レベルの景気対策に後押しされるのであれば、地方は助かるはず。
とにかく中国の田舎には、都市生活とは隔絶した世界がある。
中国に旅行に行く人は、ぜひ田舎に行ってほしい。非常に勉強になるので。

Q. 貧富の差が中国社会に与える影響は?
A. (ハーニー氏自身の取材に基づいていえば)
田舎に住む人々のほぼ100%には、問題意識はなく、怒りもない。まったくない。
深圳(しんせん)や広州といった都市においては、人々の間にある程度の怒りや不満が感じられる。
だが、社会全体に影響を及ぼすほどの規模ではない。


(以上)
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(感想)
聞いていて衝撃だったのは、Q&A最後の部分、つまり「貧困層とされている人々も、基本的には政府に対してほとんど怒っていない」という発言でした。昨年来、人権関係の報道を見ていると、中国でも「08憲章」やら、昨年終盤に中国全域に物凄い勢いで広がっていた学校教員のストやら、「中国の民衆もいよいよ怒り始めた?」と感じられるニュースが増えてきていると思われたのですが……。

ただし、ここ数年間現地取材に入っているというハーニーさんも、中国南部を中心にカバーしているそうなので、全体を見ようとしたら、チベットを始めマイノリティ民族の住む周縁地域の事情も含めて、また異なった状況の推移があるのでしょう。といいますか、一度で全体を見て、ひとくくりに総括するなんてきっと、不可能なのですね。

「貧しい農村地域から出てきた人々は、何よりも経済的に豊かになることを求めて猛烈に働き、健康を犠牲にすることなど厭わない」といった話を聞いていると、中国政府のプロパガンダで頻繁に使われている「共産党政府はチベット経済を飛躍的に成長させた、それなのに何が不満なのか?」といった発言の背景が伺えるような気がしました。こうした物言いが当局にとっては、自国民(漢民族)に対してチベット支配の正当性を主張するにあたって有効なロジックとして機能するであろうことは、想像に難くないと感じられます。(先月ジャムヤン氏のブログに掲載されたツェリン・シャキャ氏のエッセイの内容が想起されます。)

また、「道路建設を切望し、なんとか自分の村にも舗装道路を通したい人々」の視点からは、「チベットには政府によって道路も鉄道も通してもらい、飛躍的にインフラ整備を進めてもらっておきながら、人々はいったい何が不満なのか?」という反応が出てくるのも、自然な流れといえるでしょう。中国全土の「素朴な村の人々」にとっては、チベット(ラサ)のインフラ整備はその社会基盤を、流入してくる人々にとってのみ有利な構造に組み替えてしまい、本来の地元の人々の生活が破壊されてしまったという実態について、知る由もないからです。
by epea | 2009-04-04 01:58 | チベット・中国関連
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