人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『ランゼン: 独立チベットの論拠をめぐって』 ジャムヤン・ノルブ

"RANGZEN: The Case for Independent Tibet" by Jamyang Norbu

(訳注・ 本稿は、ジャムヤン・ノルブ氏が当初、2006年に発表した論考を昨年、2008年版としてブログに再録した原稿について、日本語訳の可能性を伺ったところ、さらに推敲を加えた最新版をジャムヤン氏より直接送付いただき、翻訳する運びとなったものです。)


*************************************
■ 2008 Introduction
2008年版 序論

チベットにおいて、古(いにしえ)の山と雪獅子の旗を掲げることは、見つかればその場で銃殺されかねない「分離主義派」の違法行為とされている。にもかかわらず、今年(2008年)一連の歴史的な蜂起において、数百にのぼるあまたの国旗が、チベット全土において挑戦的に翻った。いわば、抗議者達による「ランゼン」を求める声――すなわち、独立を求める声が、響き渡っているかのように。

チベットの人々がランゼン、すなわち独立を求めているという事実に、疑いの余地はない。その他の要求、すなわち「ダライ・ラマ法王の帰還」を求める希望すらも、それは真の意味において、独立を宣言する行為にほかならない。なぜなら、法王は他の何物にもまして、自由なチベット国家という存在の不朽の象徴だからである。まさしく今、チベット全土にわたって、ウ・ツァン、カム、アムドにおいて、人々は独立の夢、ダライ・ラマ法王のチベットへの帰還という夢を、しっかりと握りしめている――中国による残虐で容赦のない軍事弾圧に直面しながら。

ラサから戻ってきたオーストラリア人ジャーナリストは語る。「私は……街が中国軍の重圧の下で軋みをあげているのを目撃した。」 2008年11月8日付の詳細なレポートで、彼は次のように述べている。「チベットの首都ラサ旧市街の裏通りでは今週、世界の目から隠れて不気味な軍事作戦が展開されている。夜の帳が降りるころ、数百もの中国軍事部隊が暴徒鎮圧用の盾とアサルトライフルを手にして、この反抗精神に満ちた街に散開した。彼らは街角に歩哨を立て、パトロール隊を放った。いかなる抗議の兆しも見逃すまいと、ラサ・チベット人街の通りを夜通し歩き回るのだ。陽が昇っても、兵士達はいなくなるわけではなく、新しい部隊と入れ替わる。そうして昼間のラサの軍の締め付けにおいては、さらにもう一つ、身も凍るような措置が加えられる――この市街で最も神聖な場所であるジョカン寺の屋上に、狙撃手達が配置されるのだ。彼らは、その下の(ジョカン寺の周囲を取り囲む広場である)バルコルにたどり着いた数百ものチベット人巡礼者達に向けて、銃を構えている」

このエッセイは、世界に広がるチベット人に対して、私達の理念「ランゼン」の歴史的、政治的、および倫理的な正当性を今いちど検討してもらうべく促すために、ここに再録している。この理念を胸に、チベット域内にいる私達の兄弟姉妹達は勇敢に立ち向かい、投獄され拷問され、処刑され続けている。そしてこのエッセイは、私達共通の夢を実現するにあたって彼らと一体になるために、私達の担う責任や献身について、再び新たにすることをも意図している。


■ 2006 Introduction
2006年版 序論

人間の歴史には、ごく稀でありながらも決定的な瞬間がある。その時、圧倒的で一見して永久に続きそうな専制状態、その無慈悲な構造の表面に、迫りくる崩壊の最初の小さなひび割れがあらわれる――そして、長い間抑圧されてきた人々の心、虐げられてきた国々の中に、希望のかすかな揺らめきが湧きおこる。ベルリンの壁の崩壊は、東欧や中欧、中央アジアの一部において、そうした時の移り変わりの前触れを告げるものだった。

チベットの人々にとっても、そうした変化はすぐ間近に迫っているのかもしれない。中国の経済成長は、中国社会を分裂させかねないような、膨大で解決しがたい数々の問題や紛争を生み出している。中国固有の官僚腐敗、絶望に駆られた貧しい農民の蜂起、大規模な労働騒擾、苛烈な宗教弾圧、刻々と拡がる経済格差、(黙示録的な規模で拡大しつつある)環境破壊、独立した法廷の不在、そしてほとんど存在すらしない市民社会――こうした要因によって2005年、(中国政府の公式報告によると)8万3000を超えるデモや騒乱、数多くの暴力事件が中国全土に広がった。今年(2006年)もあと4ヶ月を残すところとなったが、そうした社会の騒乱について報告されている数は、すでに10万件以上にのぼっている。

近年、中国共産党指導部のとある上級党員らが、2008年の北京五輪に際して数百、数千もの外国人訪問者や世界の報道陣が押し寄せた時に起こるかもしれない事態について懸念を表明している、と伝えられている。中国情勢のオブザーバー達によると、そうした状況はチベットやウイグルの独立支持活動家達に、また、疎外され抑圧を受けてきた中国人達にも、世界の衆目の前に抗議を展開する格好の機会を与えることになる。

アジアの歴史におけるかくも重大な岐路にあって、チベット人は自らの独立を求める闘いに関わり合うことに対して、躊躇したり弱気になったりしないことが、致命的に重要である。また、チベットの友人達や支援者達、また世界全体においても、チベット人やチベット文明の存続のためにはランゼンが絶対に必要であることを理解していただき、独立した祖国を求めるという主張がいかに著しく道理にかなっており、節度ある正当な要求であるかについて、正しく認識してもらうことが、きわめて肝心だ。

(続く)

**************************
2009年7月12日 渋谷 宮下公園
『ランゼン: 独立チベットの論拠をめぐって』 ジャムヤン・ノルブ_d0046730_1445396.jpg

『ランゼン: 独立チベットの論拠をめぐって』 ジャムヤン・ノルブ_d0046730_144284.jpg

by epea | 2009-07-13 01:49 | Jamyang Norbu
<< 『ランゼン: 独立チベットの論... ムスタン >>