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2009年 07月 18日 ( 2 )

『ランゼン: 独立チベットの論拠』 - 4

■ Why Rangzen is Absolutely Essential
なぜランゼンが絶対に必要なのか

いくつかの国々は他の国家や帝国の配下にあってもどうにか生き延びているどころか、外国の統治によって利益を得ているような場合もあるだろう。最も顕著な例はいうまでもなく、イギリス統治下の香港だった。けれども、たとえ熱心な中国の支援者であっても、中国によるチベット支配は成功したと思しき点が見当たらないどころか、イギリスによる香港支配と比べたら人道的にも自由度においてもほど遠いということを認めざるをえないだろう。

とはいえ、比較的良質な外国による支配であっても、一見したところ、先住民の文化や意識、気力に弊害をもたらしている兆候がある。オーストラリアやカナダは豊かな経済に恵まれ、(少なくとも今日では)先住民を含む自国民の権利を護るための様々な民主制度の発達した先進国だ。けれども、こうした国々では多くの先住民達が道徳的に堕落し、貧困と病にさいなまれ、アルコール中毒の犠牲となり、絶望に瀕している。こうした状況は、チベット域内で起こりつつある現象と不気味なほど酷似している。

外国による統治下で、多少なりとも自尊心を保ちながら生きのびる唯一の方法は、圧政を強いる権力に対して常に対抗・挑戦し、最終的には自由を獲得する、という希望を保ち続けることであるように思われる。もし暴君に対して抵抗すれば、征服者側から敬意すら獲得するようだ。白人による不正と暴力の下に苦しみながら死んでいった数百万ものアメリカ先住民達のうち、現在もアメリカ国民に尊敬の念とともに記憶されているのは、ジェロニモ、クレージーホース、シッティングブルといった、最後まで白人と熾烈な戦いを繰り広げた偉大なる酋長達だけだ。白人の下で円満に暮らそうとワシントンDCへ赴いて「偉大なる白人の父」(*1)におとなしく服従した酋長達は、すっかり忘れ去られている。

ジョージ・オーウェルは新聞に寄せたコラムの一つで、次のように述べている。メソポタミア、エジプト、ギリシャ、ローマといった古代文明では、現代社会が電気や化石燃料によって成り立っているのと同様、完全に奴隷制度のうえに成り立っていたにもかかわらず、おそらくスパルタカスを除いて、ただ一人の奴隷の名前も記録に残されてはいない。そして私達がスパルタカスを記憶しているのは、「……彼が『悪に手向かってはならない』という禁則(*2)に従ったからではなく、むしろ悪に対する激しい反乱を起こしたからなのだ」


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訳注
(*1)「偉大なる白人の父」: 
"Great White Father"とは、「大統領」を意味するアメリカ先住民の表現。

(*2)『悪に手向かってはならない』:
"resist not evil"とは、聖書マタイ伝第五章からの引用。

日本語文語訳
  されど我は汝らに告ぐ、悪しき者に抵抗ふな(てむかうな)。
  人もし汝の右の頬をうたば、左をも向けよ
  (だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬も向けなさい)。

標準英語訳
  But I say unto you, That ye resist not evil:
  but whosoever shall smite thee on thy right cheek,
  turn to him the other also.
by epea | 2009-07-18 11:25 | Jamyang Norbu

『ランゼン: 独立チベットの論拠』 - 3

■ Inside Tibet Now  チベット内部は今

世界中でおそらく、チベットのようにスターリン主義の政治体制下に統治されている地域は(おそらく北朝鮮を除いて)ないであろう。とりわけラサは、最も厳格な状態にある。この厳しい現実は、西洋からの旅行者、そしてナイーブな(うぶでだまされやすい)亡命チベット人の訪問者からもほとんど見過ごされてきた。彼らは中国の無節操な全体主義システムについてはあまりに無知なまま、中国の「素晴らしき新しき資本主義社会」のスケールに感銘を受け、時としてその歯車に引き込まれてしまう。

現在チベットを訪れる人々は(いわゆるチベット「専門家」を含めて)、日常で出会う人々が中国による統治に対してあからさまに抗議の意を示さない様子を見て、チベット人は現状に満足していると結論付け、中国共産主義の支配下にある生活の実態を相変わらず考慮に入れそこねてしまう。バツラフ・ハベルは、強圧的な圧政の下で暮らす人々が、知的・社会的・政治的行為に関して保たざるをえない「二重人格」について、克明に記述している。単刀直入にいえば、「誤った」意見を持つ国民を罰するといった国家においては、単に訪問者が人々の真の気持ちを見過ごしがちな傾向に陥ってしまうのみならず、その国家体制自体もおそらく、そうした国民の真意の実態について把握しにくくなるだろう。

中国当局は1979年、ダライ・ラマ法王特使がラサに到着した際に受けた圧倒的な感情に満ちた大歓迎を目の当たりにして、唖然としていた。当局は、ランゼンを支持しているチベット人は「ほんの一握り」しかいないと、ある程度まで実際に信じていたようだった。問題の深刻さゆえに、当局が基本的な秩序の再建をはるかに超えて抑圧的な方策をとらざるをえなくなるまでは。

ディスコやカラオケバー、売春宿、ナイトクラブ、ホテルなど、コンクリートの建物のけばけばしく安っぽい正面玄関の内側で、中国政府のぞっとするほどあからさまな数々のキャンペーン、「容赦なき抑圧(1988)」「強打(1966、2001、2004)」「死に至る闘争(2006)」運動が、厳格に推進されている。人民解放軍(jiefangjun)、武装警察(wujing)、強制労働収容所(laogaidui)、国家精神棟(ankang)、公安(gongan)、国家公安部(anquan or guoanbu)、そして「相互監視」システム(danwei)といった制度が、(労働)単位(work unit)、「愛国再教育」チーム、近隣保安監視(neighborhood security watch)、そして絶えず存在している密告者達によって遂行される――こうした制度すべてが、自由にあけすけに機能している。それらは、独立状態にある法廷、自由な報道、市民団体、独立した監視機構、倫理的・宗教的な意見といったものとはかけ離れており、しかも世界の報道機関も常駐せず、何者にも妨げられずに存在している。世界中で最悪の統治が行われている国々であっても、中国指導部がチベットで何の責任も問われることなく遂行している暴虐な専制独裁政治を回避しないまでも、(上記のような)制度が何らかの形で、いくばくかは存在しているものだ。

2006年5月、チベット自治区 共産党書記の张庆黎(Zhan Qingli)は、ダライ・ラマ法王に対する「死にいたる闘争(Fight to the Death)」運動を発表した。チベット人は、政府の最も低い役職から上級職員に至るまで、いかなる宗教儀式への参加も許されず、寺院や僧院に行くことも禁止された。以前は、党員だけが宗教を放棄するよう強要されていた。僧院における愛国教育運動は拡大された。ラサとその周辺地域にいるチベット人職員は、ダライ・ラマ法王を批判する文章を書くように強制されている。下級職員は5000語の非難文でよかったが、上級職員は10000語の文章を書かなければならない。引退している職員さえも免れることはできない。

チベット域内では、数十年にわたる魂を破壊するような共産主義の教化や、世界でも最も冷酷で衰えることのない圧政のシステムを経て、チベット人の「ランゼン」独立への希望はまだ、断固として圧殺されることを拒んでいる。現時点では大規模なデモは可能ではないとしても、勇気ある個人、尼僧、僧侶、そして一般の人々が、数か月、数年の間、禁じられているチベット国旗を掲げ、反中国のポスターを貼り、公衆の前でランゼンを叫び続けてきた。2003年10月2日、ニツォ僧院の20歳の僧侶ニマ・ダクパは繰り返し拷問を受けて獄中で死亡した。彼はチベットの独立を求めるポスターを貼ったことにより「分離主義」活動の罪を問われ、9年間の刑に服している最中だった。2006年9月3日、人々で込み合うラサのバルコルで、23歳の僧侶が一人でチベットの独立を求める短いデモを行った。数分で彼は中国保安要員に拘引されていった。このような、数百もの似たようなケースにおいて注目すべき点は、スローガンとして叫ばれていた合い言葉が例外なく「ランゼン」であったことだ。


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訳注
4番目の段落に多い中国の諸制度、運動などの名称については調べがついておらず、不正確なものです。
ご存じの方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけますと幸いです。
by epea | 2009-07-18 05:15 | Jamyang Norbu