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ムスタン

ごぶさたしています。ご連絡いただいていた方、すみません。


ネパールはアンナプルナの裏側、憧れのムスタンの地へ行っていました。
ただし今回はロウワーまで。ローマンタンのあるアッパー地域のパーミットをもらうには、10日間でUS$700も支払わないといけません。

朝陽に照り映えるニルギリ山。
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背中にはトゥクチェにダウラギリ、前はトロンピークにヤッカワ。
何もないところを延々と行きます。前半は晴天に恵まれました。
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標高が高くなってくると、雪になったり。
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真ん中の緑はカグベニ村の麦畑。サキャ派の古いお寺があります。
奥の方に進んでいくと、アッパームスタン。
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……都会に戻ってきたら、軍最高司令官のクビが飛んでいて、飛ばした首相は電撃辞任、暴動で子供が亡くなり、一部地区では戒厳令。目指す地点に行こうとするとコワい顔をしたお兄さんに道を阻まれたりして。マオ派のデモじゃなかったら、私も応援するところだったけど!?
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でもほとんどの街中では、ゆったりした時間が流れていました。
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仏像の額が朱色の粉で染まっていたり、お寺の境内にハヌマーンみたいなお猿が座っていたり……。おもしろいよね。
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こういう雰囲気も、好きだなぁ。
いろんな神さまがいて、いいじゃない。仲良くしようよ。
# by epea | 2009-05-10 23:51 | 日常雑記

『China's Train, Tibet's Tragedy』 

昨日4/6(月)にチベット亡命政府から発表されたばかりのほかほか新資料より、
一部を抄訳してお伝えします。

亡命政府からのリリースはこちら
■原本はこちら(PDF 5.7M)

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『中国の列車、チベットの悲劇 (China's Train, Tibet's Tragedy)』 

環境に与える影響 (Environmental Implications)

チベット北方高原(Northern-Tibet Plateau/NTP)は中国西方の広大な地域を占める、平均標高4500m、面積250万平方キロの広さを誇る高地。世界の屋根、地球の第三の極として知られ、古代から現代に続く氷河およびアジアを代表する大河の源でもある。この高原の大気は上昇気流に乗り、アジア全域の大気循環、地域の気候(気温、降水型、モンスーン等)に大きな影響を及ぼす。
⇒ 地球温暖化の影響は標高が高まるにつれ大きくなるのだから、チベットの高地は世界的な気候変動に対して特に被害を受けやすいといえる。

■チベット高原に棲息するユニークな動物たち
・チベットアンテロープ(チベットレイヨウ)
・ベンガルトラ
・アカパンダ
・ジャイアントパンダ
・ヒマラヤタール
・ツキノワグマ
・ヒグマ
・ユキヒョウ
・クロクビ鶴
・バーラル(ヒマラヤンブルーシープ)
・チベットガゼル
・野生のヤク
など。
チベット高原は、かつて「高原のセレンゲッティ」とも呼ばれていたのに、今やいずれの動物も、頭数・種類ともに著しく減少の一途をたどっている。

・都市化やインフラ開発の進展とともにこうした野生動物の棲息を支えることのできる環境は失われてきている。
・絶滅危惧種から作られた品物が観光客向けのおみやげとして出回っており、売上げを伸ばしている。環境問題専門家グループは、こうした製品を買わないようにと旅行者に呼びかけている。

■今日、チベット域内において
絶滅に瀕している植物は、40種
絶滅に瀕している動物は、141種

■チベット高原に源流を発する代表的なアジアの河川
・黄河
・長江
・メコン川
・サルウィン川
・ヤルツァンポ川 → ブラマプトラ川 → ガンジス川

これらの河川はアジア全人口の80%(全世界人口の約半分)を潤す水源。
だが、二つの要因により乾燥化が進んでいる。
1. 気候変動
2. 中国東部における水資源需要に振り分ける計画の進行

■中国その他の環境学者の研究によると、地球温暖化がチベットの環境に重大な影響を与えていることに疑いの余地はない。
チベットでは、世界平均の2倍の速さで温暖化が進んでいる。
過去50年間において、北半球の平均よりも、また同じ緯度の他の地域よりも温暖化の規模が大きかった。
チベット高原において、1950年代から1980年代にかけて、10年毎に平均 0.1-0.3℃ で気温が上昇したことが計測されている。

■湖の表面積も減少している。
チベット高原最大の湖・ナムツォ湖では、1970年から1988年にかけて 38.58 平方キロの湖面が縮小している。
すなわち、1年あたり 2.14 平方キロ の消失。

■過去21年間、ラサの気温は一年あたり 0.00623℃上昇してきた。

■草原の減少、氷河の融解にもつながっている。
中国と米国の研究者の調査によると、地球温暖化によってチベット高原における植物種が劇的に減少しかねない。すでに、高原に豊富に存在していた種はある程度失われており、
1991年から2001年にかけて、薬草は年平均で 4.9種、食用の植物は 5.4種も失われている。

■こうした現状に対して、中国の「西部開発戦略(計画?)」に基づく開発がさらに拍車をかけている。
World Wide Fund for Nature (WWF) China によると「開発が、チベット生態系の質に影響を及ぼしている最大の要因」。
主な要因:
・チベットにおける急速な人口増加、道路建設、鉱山開発、放牧の衰退
・森林伐採、焼畑農業、建築、伝統的な農業習慣、お香の製造(古い森林の破壊につながる)
・野生動物の不法な狩猟
・野生生物の保護と畜産の対立(ヒグマや野生のヤクの減少)

■中国政府による方策
チベット高原における気候変動と環境劣化はアジアひいては世界全体に破滅的な影響をもたらすことが明らかになっているにも関わらず、中国政府による方針は環境への影響をほとんど無視した、経済偏重路線が続いている。

・中国鉄道省
「(青蔵鉄道は)周辺の生態環境に破壊的な影響をもたらすだろう」ことを認め、「悪影響を最小に抑える効果的な方策を検討している」と述べた
⇒ 中国政府は、鉄道周辺の環境保護に1億9250万ドルを投資
・野生動物が鉄道を横切って移動する時に通れるような地下道
・永久凍土の溶解を防ぐための特別冷却液
・チベットの環境を汚染しないためのゴミ処理
例)
・2007年7月2日・中華日報(China Daily)による報道
「鉄道省は、7万トン分のゴミや汚水を適切に処理」
・2006年6月17日・ウェブ版人民日報(People's Daily Online)による報道
「青海省-チベット(ゴルムド-ラサ間)を毎週、ゴミ収集のための特別列車が走り、高原の環境を保護」
「環境保護団体グリーン・リバーと鉄道建設関係者らが協力し、5年にわたる鉄道建設計画において環境面への配慮が盛り込まれるよう検討した」

だがこうした努力はあっても、鉄道建設は実際に周辺の環境に影響を与えてきている。

■チベット高原の環境をめぐる証言
・World Wide Fund for Nature (WWF) China 在ラサ・プログラムオフィス長ダワ・ツェリン氏:
「チベット高原の生態系は、きわめて脆弱。いったん破壊されたら、元に戻すのはきわめて難しい。地域開発の必要性を、チベットにおける生物種の多様性(biodiversity)の保護と統合させることが、喫緊の課題」

・チベット高原の社会経済開発に関する研究に従事してきたアムド(青海省)上級研究員 Weng Hengshen氏:
「青蔵鉄道は、開通してから後の方が環境保護に関する大きな課題を生み出す。脆弱な生態系は、回復不可能な破壊を受ける危険に直面するだろう」との懸念を表明

・四川省をベースに活動している環境保護団体グリーン・リバーの設立者・会長 Yang Xin氏:
「(同団体は鉄道建設関係者と協力してきたが)鉄道のレール敷設のための資源調達のために、草地が犠牲になっていることは否定できない。この地域の生態系・種の多様性が失われたら、それが回復される可能性は限りなく小さい。表土や草地がダメージを受けたら、その回復には100年かそれ以上かかるかもしれない」

・中国国家副首相 曾培炎(Zen Peiyan)氏
「1956km に渡る鉄道は建設よりも維持するほうが困難で骨の折れる作業となるだろう。
安全策の改善、よりよいサービス、効率的な移送、そしてよりよい環境保護政策が必要。
高原の擁する広大な地域は地球温暖化や資源開発に対してきわめて脆弱であり、鉄道のもたらす環境の変化は自然の生態系に不可逆なダメージをもたらす可能性がある」

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もしかしたら来週末に使うかもしれない資料の叩き台として、突貫工事で(笑)まとめてみました。たぶんこのままでは使わないので、ここにも載せてしまおう。

元の英文資料はタイトル『China's Train, Tibet's Tragedy』が示すとおり、青蔵鉄道がチベット高原(の主に生態系)にもたらしている影響について、非常に多くの参考資料から記述を引用しながら、わかりやすくとりまとめた環境白書となっています。

驚いたのは、高原全域で進んでいる砂漠化現象によって、青蔵鉄道を支える土壌が土から砂に変わり始めているため、すでに危ない状態に移りつつある橋脚もあるらしいとのこと。 「地球温暖化で永久凍土が緩んできて、危なくなるのでは?」と思っていたのですが、それより早く砂漠化が進行している様子です。

中国政府は、「砂をがっちり固めて橋脚を安定させ、かつ環境にもやさしいケミカルを開発した」と発表しているそうですが……本当に生態系に優しいスーパーテクノロジーであることを、切に祈ります。。
# by epea | 2009-04-08 03:50 | チベット・中国関連

西蔵ツワン氏、レセプション

金曜夜に依頼されていたことについて、パフォーマンスは自分自身でまったく納得のいかないものとなり、反省している(というほど大仰な役割でもなかったけれど)。直前にいただいた情報を自分の原稿と統合させようと努力したが、不自然な文章になってしまい、淀みなく、というわけにはいかなかった。夕方に職場から直行したので、気持ちもざわついていた。

昨年から見ていてくれたある人が、「いっそ副業にすれば?」とのたまう。結婚式などの司会の相場は、一件あたり2万円程度らしい。事前の打合せに必要な時間もあるし、人様の一生に一度の晴れの舞台で失敗は禁物というプレッシャーはあるものの、週末の半日を費やすアルバイトとしては悪くない。毎週そうして稼いだ分を、自分が心からサポートしたいと思っているNPOに定期的にまわせたら素敵じゃない?! などと野心がいっしゅん頭をもたげ調べてみたところ、現実はそう甘くはなさそうで、実現性のあまりの低さに早々と却下する。

帰り道、西蔵ツワンさんと歩きながら、途中までご一緒させていただく。

ツワンさんは、1960年代、亡命政府より日本に初めて本格的に派遣されたスーパーエリート・選りすぐりのチベット青年団5名の中のお一人。10代前半で日本に降り立ち、そのまま日本で教育を受けて医大を卒業。埼玉医科大学勤務を経て、現在は武蔵台病院院長(下のリンク先記事などで「副院長」となっていますが、現在は院長になられています)。

「『12,3 才で日本に来て、一人でさぞ苦労されたでしょう』とよく言われるのですが、自分自身で振り返ってみて、日本に来てから苦しかったという記憶は全然ないのです。私の引き取られた先は埼玉県の秩父で、当時は本当に何もない田舎でした。親がなくても、街全体が自分を育ててくれたように感じています。昭和40年代で、昔ながらの日本のコミュニティが残っていたのも、よかったのかもしれません」

「また、60年代はまだ希望に満ちた時代で、『さあ、これからチベット人は世界に羽ばたいていくぞ』ということで、私たち5人は亡命政府より希望を託されて、日本にやってきました。アメリカやヨーロッパに派遣されたグループもありました。チベットの人々は希望に満ちた将来を思い描いていて、意欲にあふれていました。そういう時代背景の影響もあったと思います」

(G20でサルコジ大統領が「チベットは中国の一部」と発言したとされる報道について)
「それは、国際社会の中の立場によるものだと思います。フランスという国家の指導者としてはやむをえないものと理解していますし、特にどうということも感じません」

(2月に設立されたチベット・中国友好協会で、会長に就任された件について)
「今のチベットの状況は、中国の一般の人々にわかっていただかなければ、どうにもならないと考えます。この50年間、チベット難民だけでなく中国の人々も大勢が亡くなっています。私は、中国の人々もまた、被害者だと思っています。100%チベットが正しい、と言うつもりもありません、チベットにも問題はあるのです。チベット問題を解決するには、中国政府に迫害されている周辺の他の民族の人々と協力し合っていくことが必要でしょうし、何よりも中国の『民』の力が必要です。中国の人々と協力していきたいと願っています」

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ツワンさんの生い立ちについては、こちら。いいインタビューですので、ぜひご覧ください。
『風の馬』チベット・コラム 第1回: チベット人の魂は抑圧できない

「……映画の登場人物の中で、個人的には中国指導部に一番同情しました。彼らは今起きている事に気づいてない。いずれ全てを精算する時がやってきます。今の状況では、チベット人にとって失うものはもう何も無く、闘うしかありません。闘うという事は決して暴力ではなく、仏教の慈悲の心を持ちひたすら耐える事です。チベット仏教の哲学は耐える事、憐れむ事、それが根底です。時間はかかるかもしれませんが、いつか中国が民主化し、今まで行った事が全て浮き上がれば、今度は彼らが裁判にかけられます。その事実を今の中国指導部は知っておかなければいけません。……」

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お話を伺いながら、お写真と一緒にブログに掲載してもいいですか? とお許しをいただいていたのに、最後は慌しくなってしまい、撮らせていただくのを忘れてしまった。実際にお目にかかった雰囲気は、こちらのポートレートに近い感じ。静かで落ち着いた知的な物腰、その穏やかな底に湛えられた凄みのような気配がじわっと滲み出てくる、といったような。たいへん素敵な方でした。
# by epea | 2009-04-05 01:31 | チベット・中国関連

『中国貧困絶望工場』 アレクサンドラ・ハーニー氏講演会 (2)

(昨日の続き)

■現在、中国の輸出量は激減。
昨年秋以降、6万以上の工場が閉鎖され、1100万人の出稼ぎ労働者が失職している。

■今後の中国製造業のゆくえ
厳しい状況ながら、不況が逆に中国の力を高めている兆しがある。

1. 不当な受注の拒否 (不当に安いと思われる海外からの要求にはNoという)
2. 工場の移転 (コストの高い沿岸部 → 内陸の農村部へ)
⇒ 貧しい農村部の発展につながる

★China Price は、現在の「沿岸China Price」からさらに安価な「内陸China Price」へと、変化し始めている。
★したがって、China Price は値上がりしない。中国は今までと変わらぬ競争力を維持し、「世界の工場」であり続ける。
★さらに、価格以外の付加価値を備えた「China Price」の実現を目指している。


【Q&A より】
Q. リーマンショック以降の中国は?
A. (ハーニー氏は毎週のように中国南部を取材)
工場の閉鎖も失業者も増えているのは事実だが、出稼ぎ労働者の中には「これからよくなる」と、ポジティブな考え方の人々が多い。今回の金融危機については世界的な規模の出来事であるとの認識が浸透しており、中国政府を責める機運はない。
「今までも、生活はよくなってきた。これからも、よくなっていくしかない」といったような、将来への信頼感が強い。また、海外で学ぶ人々も増えてきている。

Q. 中国はマクロ的に4兆円の景気対策を発表しているが、製造業には影響があるのか。
A. 「あまり意味がない」という声もあるが、(ハーニー氏としては)インフラへの公共投資で田舎への道路が整備されれば、沿岸部→内陸部への工場の移転も早まる。中国にはまず何よりも道路整備の必要な村々や地域がたくさんあるため、全国的な道路建設が国家レベルの景気対策に後押しされるのであれば、地方は助かるはず。
とにかく中国の田舎には、都市生活とは隔絶した世界がある。
中国に旅行に行く人は、ぜひ田舎に行ってほしい。非常に勉強になるので。

Q. 貧富の差が中国社会に与える影響は?
A. (ハーニー氏自身の取材に基づいていえば)
田舎に住む人々のほぼ100%には、問題意識はなく、怒りもない。まったくない。
深圳(しんせん)や広州といった都市においては、人々の間にある程度の怒りや不満が感じられる。
だが、社会全体に影響を及ぼすほどの規模ではない。


(以上)
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(感想)
聞いていて衝撃だったのは、Q&A最後の部分、つまり「貧困層とされている人々も、基本的には政府に対してほとんど怒っていない」という発言でした。昨年来、人権関係の報道を見ていると、中国でも「08憲章」やら、昨年終盤に中国全域に物凄い勢いで広がっていた学校教員のストやら、「中国の民衆もいよいよ怒り始めた?」と感じられるニュースが増えてきていると思われたのですが……。

ただし、ここ数年間現地取材に入っているというハーニーさんも、中国南部を中心にカバーしているそうなので、全体を見ようとしたら、チベットを始めマイノリティ民族の住む周縁地域の事情も含めて、また異なった状況の推移があるのでしょう。といいますか、一度で全体を見て、ひとくくりに総括するなんてきっと、不可能なのですね。

「貧しい農村地域から出てきた人々は、何よりも経済的に豊かになることを求めて猛烈に働き、健康を犠牲にすることなど厭わない」といった話を聞いていると、中国政府のプロパガンダで頻繁に使われている「共産党政府はチベット経済を飛躍的に成長させた、それなのに何が不満なのか?」といった発言の背景が伺えるような気がしました。こうした物言いが当局にとっては、自国民(漢民族)に対してチベット支配の正当性を主張するにあたって有効なロジックとして機能するであろうことは、想像に難くないと感じられます。(先月ジャムヤン氏のブログに掲載されたツェリン・シャキャ氏のエッセイの内容が想起されます。)

また、「道路建設を切望し、なんとか自分の村にも舗装道路を通したい人々」の視点からは、「チベットには政府によって道路も鉄道も通してもらい、飛躍的にインフラ整備を進めてもらっておきながら、人々はいったい何が不満なのか?」という反応が出てくるのも、自然な流れといえるでしょう。中国全土の「素朴な村の人々」にとっては、チベット(ラサ)のインフラ整備はその社会基盤を、流入してくる人々にとってのみ有利な構造に組み替えてしまい、本来の地元の人々の生活が破壊されてしまったという実態について、知る由もないからです。
# by epea | 2009-04-04 01:58 | チベット・中国関連

『中国貧困絶望工場』 アレクサンドラ・ハーニー氏講演会 (1)

2009/3/31 (火)夜に行われた講演会のメモです。
元ファイナンシャル・タイムス紙記者として東京支局に勤めていたハーニーさんは妙齢のアメリカ人女性で、日本語が超ペラペラ。「講演は日本語で行われます」と告知されていたけれど、本当に演者が日本語で話すとは思っていなかった(通訳がつくのかと思っていた)、しかもごく自然なイントネーションでお話しになるので、驚きました。
日本駐在の後、2003年以降は杭州に赴任して、中国南部を担当。よって、中国語もペラペラだそうです。
現在はFTを辞めて、香港を拠点にフリーで活躍なさっています。
中国の製造業界、労働問題を長年取材した成果が『The China Price』(『中国貧困絶望工場』の原書名)。

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『中国貧困絶望工場』の著者、アレクサンドラ・ハーニー氏講演会

■日本経済と中国経済は、もはや切り離して語れない

■「環境問題・労働問題・食の安全」への理解が重要

■China Price とは、2004年にビジネスウィーク誌が使い始めた言葉。
中国の価格競争力は、規模において絶大で世界に莫大な影響を与えているという点で、過去に輸出で発展を遂げて「脅威」と言われた各国事例と比べてもユニーク。

■なぜ China Cost は、かくも安いのか?
安い賃金のみではない、中国の競争力を支える3つの要因:
1. 労働/環境関連法の機能不全
2. 旺盛な勤労意欲(個人が豊かになることを強く希望し、健康が壊れても働く)
3. (日本を含む)世界各国の企業による、中国企業への強い圧力

・中国の労働法はアメリカの同法と比べて労働条件がはるかに厳しい内容だが、遵法性は低い。中国の工場の8割は法を守っていない。
ただし、これは工場主側の都合だけでなく、出稼ぎ労働者側の希望でもある。
(少しでも多く稼ぎたいため、あえて勤務時間の最も長い工場での勤務を希望する人々が多い)
⇒ 表向きの「視察用のモデル工場/展示用工場/5つ星工場」と、
  決して視察されない「黒い工場/影の工場」がある。
  生産性は、当然ながら「黒い工場」の方が20~30%は高い。

 今天工作不努力   (今日、一生懸命働かなければ)
 明天努力伐工作   (明日、一生懸命仕事を探さなければならなくなる)
      (↑ 5文字目、本当は「手偏にバツ」の字)

こうした工場の蔓延している背景には、原価抑制を求める諸外国からの圧力がある。

■2つの重要な変化
1. 出稼ぎ労働者の意識の変化
2. 中国政府政策の変化

・現在の出稼ぎ労働者の中心層には10代~20代が増えている。
彼らは、貧しい内陸部の農村を出て沿岸部に出稼ぎに出てきた第一世代の子供世代、いわば出稼ぎ第二世代。一人っ子政策施行後の世代でもあり、親から大切に育てられている。

・政府はこのところ、労働関連法の制定に力を入れている。
だが、実際に工場視察を行う検査官の人数が圧倒的に不足しているなど、執行面でまだまだ不十分。

・政府が法案への取組みを重視し始めている時流に伴い、工場長の意識にも変化が見られる。
「China Price だけではダメ。付加価値をつけたい」
「OEMより脱却し、自社ブランドを設立したい」

(続く)
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参考: 「中国の問題は、中国だけの問題ではない」
インタビュー by NB(日経ビジネス)オンライン
# by epea | 2009-04-03 01:18 | チベット・中国関連